Side H 1 十二月になって一気に冷え込んだ空気の中で、エンデヴァーさんと居るベッドは、天国みたいに心地良い。 二人でいる場所だけがぬくぬくと満たされて……夢見心地で満喫していると不意にその温もりが消え、眠りの淵から引き戻された。 交接の名残で熱っぽい瞼を持ち上げると肌色が俺の視界いっぱいに広がっている。パワータイプではないとは言え日々荒事に対峙している自分の身体と比べても、厚みと面積が桁違いだ。テレビドラマや小説でお馴染みの「目を覚ましたら知らない誰か」というシチュエーションに、これほど縁遠い人はいないだろう。 (誰とも見間違えようなかもんね) 可笑しくて、フフと声を出して笑ったら気が付かれたらしい。寝起きの俺よりもずっと温かな掌が頬を撫でた。 「起きたのか」 少しだけ掠れた低い声の響きが気持ちよくて、反射的に目を閉じてしまう。 「ホークス……?」 探るように大きな指先が優しく触れ、眉や目元をくすぐる気持ち良さについ茶目っ気が出てきてしまう。くうくうとわざとらしく鼻を鳴らしていると指の動きがゆっくりとなり、やがて止まってしまった。 バレちゃったかなあ、と少しこころさみしく思っていると鼻先を摘まれた。 「……ッふ、ぁ!」 「ことり寝入りか」 漸く目を開けるとベッドサイドの橙の光の中、思っていたよりずっと近くにいたずらめいた顔がある。 「……っふふ、それを言うなら狸寝入りでしょ」 鷹ならともかく、ことりって何だ。予想外にかわいらしい物言いを訂正しながら笑いを零すと、エンデヴァーさんはフンと面白くもなさそうに息を吐いた。 本人としては冗談を言ったつもりは無かったらしい。相変わらず面倒な情緒の人で、それがまた愛おしい。 知っていることも知らないことも。この人の姿は何一つ取り零したくない。少しだけ拗ねたみたいに睨むその顔を目に焼き付けようとばかりに、じっと見上げていると今度は少し強い力で目元を辿られる。 「寝ろ。まだ夜中だ」 「……もう、そっちが起こしたんでしょ」 「普段は寝汚いくせに……」 「もう起きちゃいました」 「まったく……面倒なやつだ」 相変わらずひどい言われようだけどもう慣れた。 瞼を閉じさせようとする指を睫毛でくすぐって逆らっていると、エンデヴァーさんが先に諦めたらしく手を引いて、その上に優しく髪を撫でてくれたからちょっとびっくりする。機嫌が悪ければ、このまま頭を小突かれるくらいはするから、それを思えば今日はずいぶん優しい。 太い指が行っては戻りながら柔らかい髪の毛を好きに混ぜ返して、やがて辿り着いたつむじをぐりぐりと圧される。 「もー、くすぐったかあ……」 「ふ……」 大きな掌の下から仰ぎ見るように視線をあげると、エンデヴァーさんが笑みを深くしていた。整った顔の大きく残る火傷の痕、笑うと攣られて少しだけ左の唇が持ち上がるのが俺は好きだ。 じっと見つめていると、漸く寝かしつけは諦めてくれたようでぽんと軽く頭を叩いて立ち上がる。急に空いたスペースが寂しくて、物言いたげに唇を尖らせるとそこをむにっと摘まれた。 「すぐ戻る」 引き攣れた側だけ唇を上げる、悪戯めいた笑い方。 (こんな風に笑うんだ) この人といると、知らないってことをたくさん知っていく。だって、長いこと俺が見てきたのは不器用だけれど決して諦めない「フレイムヒーロー・エンデヴァー」の背中だけだだったから。 ----------------------------------------------------- ----------------------------------------------------- 出番19発行/ホークス×エンデヴァー ラブラブ小説本 表紙ホロPP/文庫本サイズ/本文52ページ 長めのサンプルはこちら https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12071130

Side H 1 十二月になって一気に冷え込んだ空気の中で、エンデヴァーさんと居るベッドは、天国みたいに心地良い。 二人でいる場所だけがぬくぬくと満たされて……夢見心地で満喫していると不意にその温もりが消え、眠りの淵から引き戻された。 交接の名残で熱っぽい瞼を持ち上げると肌色が俺の視界いっぱいに広がっている。パワータイプではないとは言え日々荒事に対峙している自分の身体と比べても、厚みと面積が桁違いだ。テレビドラマや小説でお馴染みの「目を覚ましたら知らない誰か」というシチュエーションに、これほど縁遠い人はいないだろう。 (誰とも見間違えようなかもんね) 可笑しくて、フフと声を出して笑ったら気が付かれたらしい。寝起きの俺よりもずっと温かな掌が頬を撫でた。 「起きたのか」 少しだけ掠れた低い声の響きが気持ちよくて、反射的に目を閉じてしまう。 「ホークス……?」 探るように大きな指先が優しく触れ、眉や目元をくすぐる気持ち良さについ茶目っ気が出てきてしまう。くうくうとわざとらしく鼻を鳴らしていると指の動きがゆっくりとなり、やがて止まってしまった。 バレちゃったかなあ、と少しこころさみしく思っていると鼻先を摘まれた。 「……ッふ、ぁ!」 「ことり寝入りか」 漸く目を開けるとベッドサイドの橙の光の中、思っていたよりずっと近くにいたずらめいた顔がある。 「……っふふ、それを言うなら狸寝入りでしょ」 鷹ならともかく、ことりって何だ。予想外にかわいらしい物言いを訂正しながら笑いを零すと、エンデヴァーさんはフンと面白くもなさそうに息を吐いた。 本人としては冗談を言ったつもりは無かったらしい。相変わらず面倒な情緒の人で、それがまた愛おしい。 知っていることも知らないことも。この人の姿は何一つ取り零したくない。少しだけ拗ねたみたいに睨むその顔を目に焼き付けようとばかりに、じっと見上げていると今度は少し強い力で目元を辿られる。 「寝ろ。まだ夜中だ」 「……もう、そっちが起こしたんでしょ」 「普段は寝汚いくせに……」 「もう起きちゃいました」 「まったく……面倒なやつだ」 相変わらずひどい言われようだけどもう慣れた。 瞼を閉じさせようとする指を睫毛でくすぐって逆らっていると、エンデヴァーさんが先に諦めたらしく手を引いて、その上に優しく髪を撫でてくれたからちょっとびっくりする。機嫌が悪ければ、このまま頭を小突かれるくらいはするから、それを思えば今日はずいぶん優しい。 太い指が行っては戻りながら柔らかい髪の毛を好きに混ぜ返して、やがて辿り着いたつむじをぐりぐりと圧される。 「もー、くすぐったかあ……」 「ふ……」 大きな掌の下から仰ぎ見るように視線をあげると、エンデヴァーさんが笑みを深くしていた。整った顔の大きく残る火傷の痕、笑うと攣られて少しだけ左の唇が持ち上がるのが俺は好きだ。 じっと見つめていると、漸く寝かしつけは諦めてくれたようでぽんと軽く頭を叩いて立ち上がる。急に空いたスペースが寂しくて、物言いたげに唇を尖らせるとそこをむにっと摘まれた。 「すぐ戻る」 引き攣れた側だけ唇を上げる、悪戯めいた笑い方。 (こんな風に笑うんだ) この人といると、知らないってことをたくさん知っていく。だって、長いこと俺が見てきたのは不器用だけれど決して諦めない「フレイムヒーロー・エンデヴァー」の背中だけだだったから。 ----------------------------------------------------- ----------------------------------------------------- 出番19発行/ホークス×エンデヴァー ラブラブ小説本 表紙ホロPP/文庫本サイズ/本文52ページ 長めのサンプルはこちら https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12071130